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栗原修とサウナ経営の全貌 - SAUNA TIGERを作った男の軌跡

By Joseph Russell

栗原修とサウナ経営の全貌 - 高級個室サウナ「SAUNA TIGER」を作った男の軌跡

日本の高級個室サウナのイメージ

サウナブームが日本全土を席巻して久しい。スーパー銭湯の混雑、銭湯の行列、アウトドアサウナの人気と、「ととのう」という言葉が若い世代にも浸透した現代。その波に乗りながら、既存のサウナ施設とはまったく異なるアプローチで業界に切り込んだ人物がいる。それが実業家・栗原修(くりはらおさむ)だ。

彼の名は一般的にはほとんど知られていなかった。メディア露出を極力避け、SNSでも顔出しをしない。栗原修さんは一般的な芸能人やタレントとは異なり、メディアへの露出をほとんど行っておらず、SNSでの顔出しも避けており、情報の多くは事業者登録やインタビュー記事から得られる間接的なものだ。それでも、東京・赤坂に誕生した高級個室サウナ「SAUNA TIGER」は、サウナ好きの間でじわじわと話題を集めていった。

リユース業界から始まったキャリア

栗原修という人物を語るうえで、サウナ事業より先に知るべきことがある。それは彼がサウナ業界に至るまでに歩んできた、まったく異なる業界での経験だ。

栗原修氏は、サウナ業界に参入する以前、リユース業界で名を上げていた人物だ。特に有名なのが、三浦哲郎氏が率いる「トリアイナグループ」での活動で、このグループは「令和の虎」に出演していたことで知られており、栗原氏はその創業メンバーの一人だった。

トリアイナグループでは営業統括マネージャーを務めており、年商250億円を超える規模の事業で中心的な役割を果たしていた実績もある。スタートアップをゼロから立ち上げ、巨大な組織の中枢を担った経験は、後に彼が自身のビジネスを設計するうえで欠かせない土台になったと考えられる。

彼はベンチャーマインドに溢れた人物で、入社してすぐに離島に買取りに行きたいと提案するほどの行動力の持ち主だったと伝えられている。単なるサラリーマン的な思考ではなく、市場の隙間を見つけて動く嗅覚が早くから備わっていた、ということだろう。

トリアイナを退社後、2017年1月に「KUROFUNE&Co株式会社」を設立し、独立を果たした。訪問買取を軸としたリユースビジネスを展開するなかで、栗原氏は次の一手を静かに温めていた。

サウナ歴25年の愛好家が事業化を決意するまで

サウナを楽しむ日本のウェルネスライフスタイル

なぜサウナだったのか。答えはシンプルで、彼自身が筋金入りのサウナ好きだったからだ。

栗原修さんは「サウナ歴25年以上の無類のサウナ好き」として自己紹介し、「長い間プライベートサウナを作りたいという思いがあった」と語っていた。消費者として長年サウナを使い続けた人間が、経営者として施設を設計する。その視点は、単なる投資目的で参入した事業者とは明らかに異なる。

若いころから全国のサウナを巡っていた栗原氏は、混雑や衛生面、プライベート空間が不足しているといった課題を感じるようになったことが、事業の原点になったとされている。既存施設の不満点を解消することが、そのままビジネスコンセプトになった。利用者として積み重ねてきた不満と期待が、そのまま設計思想に変換されたわけだ。

「日本にこれまでなかった完全個室型のラグジュアリーサウナを作りたい」というコンセプトのもと、高級サウナに着手した栗原氏。それまでの日本のサウナ文化は、大衆浴場や健康ランドに付帯する設備という位置づけが一般的だった。個室で、完全プライベートで、上質な体験ができるサウナという発想自体が、当時はほとんど存在しなかった。

SAUNA&Co株式会社の設立とSAUNA TIGERの誕生

栗原修さんは「SAUNA&Co株式会社」を2021年7月に設立し、サウナタイガーを2022年8月にオープンした。場所は東京・赤坂。都心の中でも洗練されたイメージを持つエリアだ。アクセスのよさと高級感の両立を意識した立地選びだったとみられる。

サウナタイガーは完全予約制の1人用個室(サ室・水風呂・休憩スペース完備)を備え、従来の「裸の付き合い」を排したプライバシー重視型の施設だ。上質な内装と音響設備で「究極のととのい体験」を追求し、一部著名人やタレント、経営者にもファンが多い。

栗原修氏は施設を「空間と体験」に重点を置き、サウナを「感覚を解放し、自分と向き合う場所」として位置づけている。単なる汗をかく場所ではなく、日常の雑音から切り離された「瞑想的空間」という哲学が、施設のすべてに反映されていた。

SAUNA&Co株式会社は、サウナ施設の運営だけでなく、サウナ関連アパレルなども手がけており、「サウナを文化として広げたい」という想いが感じられる事業構成になっている。施設単体のビジネスに留まらず、ライフスタイルブランドとして成長させようとする意図が明確だ。

会員制モデルと強気の料金設定

東京の高級会員制プライベートサウナ

SAUNA TIGERの料金体系は、既存のサウナ施設の常識をはるかに超えていた。

会費や利用料が高すぎるとの声もあるが、複数の会員プランが用意されており、最上位のダイヤモンド会員は月額39万円という設定だ。サービス内容としては150分×15回の利用に加え、ペントハウスや4名室なども利用でき、関連のアパレル販売の割引なども受けられるという。

月額39万円という数字は、一般的な感覚では驚きを禁じ得ない。しかしこれはターゲットを明確に絞り込んだ戦略だ。時間とお金の両方を持ち、かつプライバシーに強いこだわりを持つ富裕層やビジネスエグゼクティブを顧客に据えることで、施設の稀少性と価値を高めるモデルを採用した。

会員種別が5種類あることからも、単一の料金体系ではなく、利用頻度やニーズに応じて選べる柔軟な設計を意識していたことがわかる。プレミアムゾーンを頂点に置きながら、入口となるプランも用意するという構造は、高級ホテルやラグジュアリークラブの会員設計と共通する発想だ。

リユース事業での行政処分という影

栗原修のサウナ経営を語るうえで、避けては通れない話題がある。サウナ事業と並行して展開していた別のビジネスで生じた法的な問題だ。

栗原修氏が経営する「KUROFUNE&Co株式会社」は、宝石・貴金属・時計・ブランドバック等の中古品を購入する訪問購入業者として事業を展開していたが、業務停止命令を受けていたことがわかった。

この処分はサウナ事業とは直接関係のない別会社での出来事だが、事業者としての信頼性という観点から注目を集めることになった。複数の会社を同時に経営するなかで生じたリスク管理の問題は、急成長するスタートアップが直面しやすい典型的な課題でもある。

代表交代とその後の経営体制

SAUNA TIGERの経営体制は、2024年に大きく動いた。

2024年12月には栗原修氏が代表取締役を辞任し、その後は中村拓歩(なかむら たくほ)氏が代表取締役に就任した。2人は現在もビジネスパートナーとして関係を続けているとされる。

創業者が代表を退くことは、スタートアップの世界では珍しくない。事業フェーズが変わるにつれ、求められるリーダーシップのスタイルも変化する。栗原氏がゼロから作り上げたコンセプトと事業基盤を、次の経営者が引き継ぐかたちで運営を続けるという構図は、多くのベンチャーが辿る道筋と重なる部分がある。

栗原修のサウナ経営が示すもの

日本のサウナビジネスとウェルネス起業

栗原修という人物のキャリアを俯瞰すると、いくつかの一貫したパターンが見えてくる。既存市場の非効率や不満点を見抜き、そこに新しいコンセプトを持ち込む姿勢。リユース業界での経験で培ったスピード感と営業力。そしてサウナ愛好家としての深い当事者感覚。

栗原氏は25年以上前からサウナを愛用してきたヘビーユーザーでもあり、「消費者目線」と「経営者視点」の両面から事業にアプローチできる稀有な存在だ。この二つの視点を同時に持てることが、SAUNA TIGERという施設のコンセプトに独自性をもたらした最大の要因といえる。

日本のサウナ市場は今なお拡大している。銭湯系サウナ、アウトドアサウナ、テントサウナ、そしてラグジュアリー個室サウナ。利用者の多様化とともに、業態も急速に細分化が進む。栗原修のサウナ経営は、その流れの中でも「プライベートと高品質」という明確な軸を持って差別化を図った点で、一つのビジネスモデルとして参照価値がある。

施設をめぐる様々な出来事や経営上の課題も含め、栗原修の軌跡は「サウナブームをいかにビジネスに変えるか」を考えるうえでの生きた事例だ。成功と失敗、理想と現実が交錯するその歩みは、次の時代のサウナ起業家たちへの示唆に富んでいる。単なる流行への乗便ではなく、自身の深い経験と情熱をビジネスの核に置いたとき、どんなサービスが生まれるのか。その答えの一つが、赤坂の一室に今も刻まれている。